日本の伝統文化の1つである、華やかで美しい「着物」。大切な着物を長持ちさせるためには、普段から汚さないように丁寧なお手入れをしてあげることが大切です。でも、どんなに気を遣っても汚れてしまうことはありますよね。
着物は、ほかのお洋服と同じように洗濯機に投げ入れて洗うことができません。となると、「着物はクリーニングに出すしか方法がないんでしょ?」なんていう声も聞こえてきそうですが、いえいえ、実は着物によってはご自宅で洗うこともできます。
この記事では、着物をご自宅で洗濯する4つのステップや注意点などについて紹介していきます。「着物をそろそろ洗いたいな…」と思っている方はぜひ参考にしてみてくださいね。
着物の洗濯方法4ステップ
素材がデリケートで、なおかつ複雑なつくりをしている「着物」。そんな着物を洗うのは、さぞかし困難なのだろうと感じる方も多いでしょう。しかし、着物の洗濯が実はたった4つのステップでご自宅でもできると聞いたら、なんだかできる気がしてきませんか?
ここではご自宅で着物を洗濯する方法を、4ステップに分けて紹介していきます。着物を洗うときは、まずは絞らないことが鉄則。洗うときも浸け置き洗いで、生地を傷めないようにしながら優しく洗っていきましょう。
■1.中性洗剤と大きな洗濯桶を用意
まず、着物を洗濯するために必要なものを用意しましょう。着物を洗濯するために必要なものは、中性洗剤と洗濯桶です。
① 着物の洗濯に適した洗剤は「中性洗剤」
「中性洗剤」と聞くと、普段使用している食器用洗剤を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、ここで言う中性洗剤とは「エマール」などのおしゃれ着用の洗剤のことです。
中性洗剤は、その名のとおり中性の性質をもつ洗剤のことで、酸性やアルカリ性の洗剤と比べると、あまり強い洗浄力を持っていません。しかし、洗浄力があまり強くない反面、肌や素材を傷めずに軽い汚れを落とすことができるというメリットを持っています。酸性やアルカリ性の洗剤と比べて、安心して手軽に使える洗剤と言うことができるでしょう。
着物はデリケートな素材でつくられていることがほとんどですので、着物の洗濯には中性洗剤の使用がおすすめです。
② 洗濯桶は大きめのものを
洗濯桶は、着物全体が入り切るくらいの大きめのものを選びましょう。洗濯桶は、着物の浸け置き洗いを行うために必要なものです。着物全体が収まらないような小さめの洗濯桶では、着物をスムーズに洗うことができません。
用意する洗濯桶は、ホームセンターなどで売っている一般的なものでOKです。容積24リットル以上の大きめサイズを選んでくださいね。
■2.着物を洗剤に浸け置く
つぎに、準備しておいた洗濯桶に中性洗剤とぬるま湯を混ぜ、洗濯液に着物を浸け込んでいきましょう。
① 目につく汚れを軽く落とす
着物を洗濯液に浸け込む前に、目につくシミや汚れを軽く落としておきましょう。歯ブラシに中性洗剤を含ませ、シミや汚れを軽くこすります。
この作業は、汚れに洗剤を重点的に染み込ませるのが主な目的ですので、汚れが落ちるまでゴシゴシとこする必要はありません。あまり強くこすってしまうと生地を傷めてしまいますので注意しましょう。
② 中性洗剤を水に溶かす
洗剤の注意書きに記載されている使用方法に従い、規定量の中性洗剤を水に溶かし、洗濯液をつくります。
着物をきれいにしたい一心で中性洗剤を多めに入れてしまうと、あとですすぎが大変になってしまいます。中性洗剤の量は規定量か、やや少なめにしておくのが良いでしょう。
また、水の温度が高過ぎてしまうと着物の生地を傷めてしまったり、縮んでしまったりすることがありますので、水かぬるま湯程度の温度にしておきましょう。
③ しばらく浸け置き洗いをする
洗濯液に着物を浸し、しばらく浸け置き洗いをします。適宜やさしく押し洗いをしても良いでしょう。あまり洗濯液に長時間浸けてしまうと、生地が傷んでしまう恐れがあります。水の汚れ具合を見ながら頃合いを見て次のステップへ進みましょう。
■3.着物をすすぐ
水の汚れ具合を見て着物の汚れが大体落ちたと感じたら、すすいで洗剤を落としていきましょう。洗濯桶の水を捨てて水を注いですすぎ、また水を捨てて水を注いですすぎを何度か繰り返し、しっかりと洗剤を落としていきます。
着物を水から持ち上げる際、水を含んだ着物は大変重くなっていますので扱いには注意が必要です。着物の一箇所だけ掴んで持ち上げ方をしてしまうと、縫い糸が切れてしまう恐れがあります。持ち上げる際は、クルクルと団子状にまとめて全体を一気に持ち上げるようにしましょう。
すすぎが終わったら、着物を洗濯桶に押し付け、水をできるだけ切っておきます。ある程度水を切ったら、タオルで着物をはさみ、水分を吸わせましょう。
■4.絞らず陰干し
着物が大量に吸いこんだ水分をにギューッと絞ってしまいたいところですが、着物は絞ることはおすすめできません。絞ることで裏地がずれてしまったり、生地が傷んでしまったりするためです。
そのため、絞らずにある程度の水を切ることができても完璧とはいかず、最初のうちは干しても水がポタポタ落ちてきてしまうことがほとんどでしょう。
① 最初はお風呂場で干す
水がポタポタ落ちているうちは、お風呂場で着物を干しておくのがおすすめです。お部屋やベランダで干すと床に水が落ちて拭き掃除の手間が増えたり、マンションにお住まいの方は下の階の方とトラブルになってしまったりすることがあります。まだ着物が水気を多く含んでいる間は、水が滴っても気にならないお風呂場で干しておくと安心ですよ。
② ある程度乾いたらお部屋か日陰に干す
着物がある程度乾き、水が滴ることがなくなったら、シワをしっかり伸ばしてお部屋か日陰に干しましょう。着物を干すときは、「着物用ハンガー」を使用するのが型崩れの心配もなくおすすめです。着物用ハンガーがないときは、物干し竿を袖から袖に通し、T字にして干すようにしましょう。
着物は生地によっては太陽の光で色褪せてしまったり、傷んでしまったりすることがあるため、天日干しに向いていません。必ず日の当たらない、できるだけ風通しの良い場所で干すようにしてくださいね。
着物を洗濯する時の3つの注意点
つぎに、着物を洗濯するときの3つの注意点についてまとめていきます。着物をご自宅で洗濯する際は、これらの注意点をしっかりと理解した上で挑戦するようにしましょう。
■1.洗える着物と洗えない着物がある
着物にはご自宅で洗える着物と洗えない着物がありますので、上手に見極めましょう。
① 洗濯表示をチェック
着物の洗濯表示を見ると、着物にはそもそもご自宅で洗えるものと、洗えないものがあることがわかります。基本的に洗濯表示に手洗いマークがついている着物に関しては、ご自宅で洗うことができます。それ以外の着物に関しては、ご自宅で洗濯をすることは推奨されていません。まずは洗濯表示をチェックしてみましょう。
② 素材をチェック
「洗濯表示に手洗いマークがついていないけど、着物を自分で洗ってみたい!」という方は、着物の素材をチェックしてみましょう。
ご自宅で洗濯ができる着物素材としてあげられるのは、ポリエステルなどの化学繊維でつくられたものです。木綿やウール、絹、麻などの天然素材でつくられた着物は縮みやすいため、基本的にはご自宅では洗うのはおすすめできません。ちょっとの縮みくらいなら気にならないという方は、挑戦してみても良いかもしれません。
また、木綿やウールなどの天然素材でも、裏地のない単衣仕立ての着物であれば、比較的簡単にご自宅で洗濯ができるでしょう。
■2.最初に捨ててもいい安い着物で練習を
本命の着物を洗濯する前に、まずダメになってもいいような安い着物を使って洗濯の練習してみるのをおすすめします。
① 安い着物はフリーマーケットでゲットする!
安い着物をお持ちでない方は、インターネットのフリーマーケットで手に入れるのがおすすめです。フリーマーケットであれば、数千円で着物を手に入れることができます。
② 練習してコツをつかむ!
いきなり大切な着物を洗ってしまうと、思ったようにいかず、大失敗に終わってしまうこともあるでしょう。着物を自分で洗濯するときは、コツをつかんでとスムーズです。何事もコツをつかむためには、一度経験しておくことが一番です。
大切な着物をせっかくきれいにしようとしたのに、もう着られないような状態になってしまったらとても残念ですよね。面倒と感じるかもしれませんが、捨ててもいい着物を利用して一度練習してコツをつかんでおくことで、自信を持って本命の着物を洗うことができますよ。
■3.着物の洗濯は自己責任で
洗濯したい着物が絹や麻などの天然素材だったら絶対にご自宅で洗うことができないのかと言うと、そういうわけではありません。洗濯によって生地が縮んでしまう可能性や、傷んでしまう可能性などを理解した上であれば、ご自宅で洗うこともできます。
着物をご自宅で洗濯する上で最も理解していただきたいのは、着物の洗濯したことによって起こってしまった失敗はすべて自己責任であること。失敗したからといって、誰かのせいにすることはできません。だからこそ、着物の洗濯についてよく理解し、慎重に行うことが大切です。これらのことを理解した上で「やっぱり自分で着物を洗ってみたい!」と感じた方は、ぜひチャレンジしてみてくださいね。
着物の洗濯をクリーニングに出した時の相場
着物の洗濯を自分で行う自信がない方は、クリーニングに出したほうが安心です。ここでは、着物をクリーニングに出すとどのくらいの費用がかかるのかについてみていきます。
■① 着物をクリーニングに出した時の相場
着物をクリーニングに出したときの相場は、10,000〜15,000円前後と考えておきましょう。
この金額をみて、高いと感じた方も多いでしょう。着物はデリケートなものですので、やはり特別な技術と工程でクリーニングを行う必要があります。そのため、クリーニングにかかる費用は高額になりがちなのです。
■② 料金が安過ぎるクリーニング店は要注意!
クリーニング店の中には、着物のクリーニングの料金が2,000〜3,000円というお店もあります。
なぜこんなに安いのかというと、1着ずつではなくまとめて丸洗いをしているためです。そのため、衿や袖口などの気になるシミや汚れがほとんど落ちておらず、お金を支払ったにも関わらず納得のいくクリーニングをしてもらえないという事態に陥ってしまう可能性があります。
料金が安いので当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、これではお金を支払った意味がありませんよね。このような後悔をしないためにも、依頼しようとしているクリーニング店の料金が安過ぎる場合は、気になる汚れが落ちるのかどうか、仕上がりはどんな感じなのかなど、前もってよく確認をし、納得をしてからお願いするようにしましょう。
■③ 着物クリーニングのお店を上手に選ぶには
最後に、着物クリーニングのお店を上手に選ぶ方法についてみていきましょう。
着物クリーニング店を選ぶポイントは、お店の方の対応です。お店の方の対応がそっけなかったり不親切であったりする場合は、着物を預けて返ってくるまでの間ずっと不快な思いをする可能性があるため、避けておいた方が良いかもしれません。
クリーニング店を選ぶ際は、こちらの質問に対して親身になって誠実に答えてくれるお店を選ぶのが良いでしょう。せっかく大切な着物を預けるのですから、信頼ができて気持ちよく取り引きができるようなクリーニング店を探してみてくださいね。
まとめ
着物の洗濯をご自身で行うことは、普段のお洋服を洗濯するのと比べると、複雑で困難に感じるかもしれません。しかし、着物をご自身でケアしてあげることで、もっと気軽に着物を楽しむことができ、大切な着物にもっと愛着を感じることができるでしょう。もちろんご自宅での着物の洗濯を難しいと感じた方は、クリーニング店にお任せするのも安心できておすすめです。
着物を洗濯する頻度としては、着用した後か、季節の変わり目に一度程度に行うのが良いでしょう。着物は、そう頻繁に洗うことのないものです。いざ洗濯する際は、上手に、そして適切な方法で洗ってあげ、次に着るときに気持ちよく着られるようにしておきましょう。