カピバラによく似ているヌートリアをご存じでしょうか?
ヌートリアは外来種でもともと日本にはいなかった動物。第二次世界大戦中に軍服を作るために持ち込まれ養殖されていました。しかし終戦後は軍事用品の需要が激減。ヌートリアは屋外に放たれ繁殖を繰り返し、現在に至ります。
ヌートリアは作物を食い荒らす害獣です。またレプトスピラ症という伝染病を媒介する可能性もあります。悩ましいヌートリア問題ですが、駆除には法律が関わるので自分で勝手に駆除することはできません。
本記事ではヌートリアに遭遇したときの正しい対処法を解説。また実際に農作物が被害にあっている方向けに自分でできる予防対策を紹介します。しっかり対策してヌートリアにおびえない暮らしを送りましょう
ヌートリアは駆除できる? ヌートリアを見つけたら|業者か自治体に連絡が正解!
ヌートリアの駆除① ■すぐにヌートリアを駆除したいなら業者に連絡
「近所をヌートリアがうろついているのですぐに何とかしてほしい」など、ヌートリアの駆除を急ぐ場合は害獣駆除専門の業者に連絡しましょう。
後ほど詳しく紹介しますがヌートリアの駆除には法律が関わります。
専門の業者であればヌートリアの駆除に関しての知識も豊富。有料にはなりますが、駆除だけでなく再発防止の対策までしてくれる業者もあります。
しかし、中には法外な金額を要求する悪徳業者がいるのも事実です。ヌートリア駆除に対する無料見積もりをしっかりとってもらい、作業内容・料金に納得できたら依頼するようにしましょう。
ヌートリアの駆除② ■無料で駆除を頼みたいなら役所に連絡
ヌートリアの駆除を急いでいおらず無料で依頼したいなら自治体に連絡するのが良いでしょう。
ヌートリアは特定外来生物に指定されており生態系を破壊するおそれがあります。そのためヌートリアの駆除に力を入れている自治体も多くあるのです。
しかし自治体に依頼する場合でもデメリットはあります。岡山市の場合ですが、ヌートリアを無料で駆除してもらえるのは「農作物に被害が発生している場合」のみ。さらに必要書類の準備や日程調節などで依頼から駆除まで10日前後かかるようです。
各自治体により条件や必要日数は異なりますが「無料で駆除を頼みたい」という場合はまず自治体に相談してみましょう。
一般人のヌートリア駆除がNGな理由 ヌートリアは「鳥獣保護管理法」の対象
なんの免許や許可も持っていない一般人がヌートリアを駆除できない理由には「鳥獣保護管理法」(正式名称:鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)という法律が関係します。
鳥獣保護管理法では野生の鳥や獣の捕獲・駆除は原則禁止。もちろんヌートリアも鳥獣保護管理法の対象です。
勝手にヌートリアを捕獲したり駆除したりしてしまうと鳥獣保護管理法に違反することに。この場合の罰則は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。
一般の方はやみくもにヌートリアを捕獲・駆除しようとするのはやめておきましょう。
では自分でヌートリアを駆除したい場合はどうすればよいのでしょう?ヌートリアに限らず野生動物を捕獲・駆除するには狩猟免許と狩猟者登録が必要です。
もし「狩猟免許がほしい」という場合、手続きは自治体により異なります。お住まいの地域の鳥獣保護管理部局や、鳥獣担当部署に問い合わせてみてください。
ヌートリアを駆除できる例外のケース
自治体がヌートリアの「防除実施計画」を策定している場合、狩猟免許がなくても講習を受ければヌートリアを駆除できるケースもあるのです。
例)鳥取県の場合
例えば鳥取県では外来生物であるヌートリア・アライグマの被害が拡大しつつあり、外来生物法にもとづいて「防除実施計画」が策定されています。ヌートリアの被害が大きくなりすぎる前に県・市町村・住民等が一体となって農作物や生態系を守ろうとする取り組みです。
ただし自治体によってはヌートリアの駆除に対して講習以外にも必要な要件があることがあります。各自治体の防除実施計画を確認してみてください。
ヌートリアを駆除すると捕獲奨励金がもらえる?
ヌートリアの駆除に力を入れている自治体では、ヌートリアを駆除すると捕獲奨励金がもらえることがあります。以下は捕獲奨励金を設定している自治体と金額の例です。
【捕獲奨励金の例(ヌートリア1頭につき)】
鳥取県:上限3,000円
岡山市:上限2,000円
東広島市:上限1,000円
ただし捕獲奨励金を受け取るには規定の書類や写真を提出したり、ヌートリアの尻尾など捕獲の証拠品の提出が必要。(証拠品の内容は自治体により異なります。)
「ヌートリアを目撃した」という情報提供だけで受け取れるものではないので、狩猟免許や捕獲・駆除の許可を持たない人にはあまり関係のない制度といえますね。
ヌートリアの駆除はできなくても予防対策はできる ヌートリア対策のための基礎知識
ヌートリアの駆除はできなくても「畑や家の敷地内に入られないように対策をしたい」と思う方もいるでしょう。
効果的なヌートリア対策をするためにまずはヌートリアの生態や特徴、ヌートリアのよくある被害を確認しておきましょう。
ヌートリア対策のための基礎知識① ■ヌートリアの生態
ヌートリアの大きさは約50~70cmで尻尾の長さは約30~40cm。体重は4.5~7kgと日本で確認されるネズミの中でも最も大きな種類です。
一見カピバラのような見た目ですが鋭利なオレンジ色の前歯と鋭い爪を持っています。ヌートリアは年に数回妊娠し1回に平均5~6頭を出産。生後半年ほどで繁殖が可能となる爆発的な繁殖力です。
川・沼地・ため池など水の流れが弱い場所や土手に巣を作り、主に水辺周辺を生活場としています。
ヌートリア対策のための基礎知識② ■ヌートリアの特徴
ヌートリアはネズミの仲間で原産は南アメリカ。主に軍用の毛皮として利用するため戦時中に日本に持ち込まれました。当時養殖場のあった西日本に広く生息しています。
農林水産省によると日本での現在の分布地域は東海地方より西の本州。京都府や大阪府など都市圏でも生息が確認されています。
ヌートリアは繁殖力が強いため、現状は分布していない地域への侵入も今後懸念される害獣です。
ヌートリア対策のための基礎知識③ ■ヌートリアの食べ物
ヌートリアは大食漢で様々な食べ物をエサとします。
基本的には草食で巣穴周辺にある植物を中心に食べるのですが、ニンジン・サツマイモなども大好物。川の近くにある農地に出かけて農作物を食い荒らすこともあります。
植物だけでなく二枚貝など動物質の食事もヌートリアの好み。希少な動植物も関係なく捕食してしまいます。
ヌートリア対策のための基礎知識④ ■ヌートリアのよくある被害
ヌートリアのよくある被害は3つ。
①巣による被害
②農作物の被害
③生態系への被害
どれも私たちの生活に深く関わる重大な問題です。以下で詳細を見てみましょう。
【①巣による被害】
ヌートリアの巣によって田んぼの畔(あぜ)や堤防が決壊する被害が起こることがあります。ヌートリアは土手や流れの緩やかな水際など狭い範囲に奥行き1~6mほどの巣穴を多く掘るため、堤防の強度が低下するのです。
実際に兵庫県のため池で、ヌートリアの巣が原因で堤防が崩れた例も報告されています。
【②農作物の被害】
ヌートリアによる農作物への被害は年々増加しており、農林水産省のデータによると平成20年度には全国の被害金額が1憶2千万円を超えています。
報告されていない家庭菜園での被害も考えられることから、実際のデータよりも多く農作物への被害が出ていると考えられるでしょう。
【③生態系への被害】
外来生物であるヌートリアは生態系を乱す可能性もあります。ヌートリアは水辺の植物を中心に食べるため、絶滅危惧種の水生植物が減少した例もあるのです。
たった1種類の生き物でも絶滅してしまうと、それを捕食していた動物の生命も危ぶまれます。もちろん人間も生態系の中に組み込まれているため、生態系のバランスが崩れるのは他人事ではありません。
ヌートリアの駆除以外にできること 自分でできるヌートリア対策4選
狩猟免許や許可がないとヌートリアの駆除はできませんが防護柵などで侵入を防止することは一般の方でも可能です。
できる限りの対策をしてヌートリアの被害ゼロを目指しましょう。(防護柵の設置には土地所有者の承諾が必要です。借りている畑などの場合、対策をする前に所有者に相談するようにしてくださいね。)
自分でできるヌートリア対策① ■自動撮影カメラでヌートリアの侵入経路を特定
まずは自動撮影できるカメラを設置してヌートリアの侵入経路を特定しましょう。正直なところ、自動撮影カメラだけでは侵入は阻止できません。しかし次に紹介する「ネットと板を使った侵入防護柵」を作るとき、ヌートリアの侵入経路が分かっていると柵を強化できます。
庭や畑全体を見渡せる場所に設置するか、死角ができる場合は全体が写るよう複数台カメラを設置するのがおすすめです。
赤外線無人撮影カメラ
自動撮影カメラは1万円~5万円が相場。たしかにお値段が高いほど性能は良くなります。しかし高額なカメラ1台で狭い範囲を撮るより1万円台のカメラ数台で広範囲を撮影し、ヌートリアの侵入経路をバッチリ特定するのをおすすめします。
自分でできるヌートリア対策② ■侵入防止ネット+板でヌートリアを侵入させない
侵入防止ネットで柵を作ればヌートリアは物理的にあなたの畑や庭に侵入できなくなります。
ポイントは侵入防止ネットとプラスチック製板やトタン板を組み合わせて使うこと。ネットだけではヌートリアの鋭利な歯にかみ千切られることもあるからです。
低い柵だと簡単に乗り越えられる可能性があるため60cm~90cm近い高さがあると安心です。ヌートリアは柵の下を掘って侵入することもあるため、地中にも20cmほど埋め込むと良いでしょう。
自動撮影カメラで侵入経路が特定できていれば、侵入してきている箇所のネットは二重にするなど特に頑丈にしておけますね。
日本マタイ
動物よけネットアニマルフェンスネット16mm目 1m×50m
50mとたっぷりの長さで田畑をグルリと囲めます。口コミで目立つのはコスパの良さと害獣被害軽減の声。軽い素材なので簡単に設置できるのも嬉しいポイントですね。まずはコスパの良い動物よけネットでヌートリア被害の拡大を食い止めましょう。
【10枚セット】波板(塩ビ・ガラスネット入り)
硬質塩化ビニル製で屋根材や壁材としても使用できる素材。サイズも3尺(91×65.5cm)~5尺(152×65.5cm)を選べます。地中に埋めることを考えても設置場所にピッタリのサイズが見つかるでしょう。
自分でできるヌートリア対策③ ■電気柵でヌートリアを近づかせない
電気柵も効果的なヌートリア対策アイテム。電気柵に触れて電気ショックを受けたヌートリアは、その場所を危険と認識して近づかなくなります。電気柵を設置する際のポイントは3つです。
【電気柵設置のポイント①草はしっかり刈っておく】
電気柵を設置する場合、柵線に草が触れると漏電の原因となります。また草むらはヌートリアが隠れるのにはもってこいの場所。電気柵を設置する前に草はしっかり刈っておきましょう。
【電気柵設置のポイント②危険表示板は必ず用意】
電気柵は人間が触っても安全なように作られています。しかし電気柵を使うのなら危険表示板の設置は義務。100mに1か所以上を目安に危険表示板を設置してください。
【電気柵設置のポイント③設置後も管理を継続する】
電気柵は設置して終わりではありません。電気柵を効果的に使用するには柵の電圧チェックや支柱のグラつき・破損がないかなどの管理が必須です。できれば毎日電気柵を点検することをおすすめします。
アポロ
ソーラー式電気柵ハイパワー菜園・ソーラー100m×2段張セット
本体・ポール・アース線など電気柵に必要なアイテムがセットになっているので届いてすぐに使用可能です。たしかにほかの対策に比べ購入金額は高め。しかし電気柵の設置でヌートリアによる農作物の被害がなくなることを考えれば、充分にもとは取れますよね。
自分でできるヌートリア対策④ ■ヌートリアのエサになるものは放置しない
農作業で出た野菜くずや収穫時期を過ぎて放置している農作物など、人間にはゴミでもヌートリアにとってはごちそうです。これらを放置している畑はヌートリアに狙われやすくなるでしょう。
知らず知らずご自宅の畑がヌートリアのエサ場にならないよう、野菜くずや収穫時期を過ぎた農作物などはその都度きちんと処分しましょう。
ヌートリアの駆除や対策のまとめ
ヌートリアは日本全国に生息しているわけではありませんが、今後生息地域が広がっていく可能性は十分にあります。
いずれにしてもヌートリアは繁殖力が強く日本には天敵もいないため、数が減らず被害も深刻。
早急に駆除が必要な場合は害獣駆除専門業者に、無料で駆除してほしいなら自治体に相談しましょう。間違っても狩猟免許や許可のない方は、勝手に駆除しないように注意が必要です。
しかしヌートリアに対して自分で何の対策もできないというわけではありません。自分でもできるヌートリア対策で被害を防ぎましょう。