山登りをする際には、ヤマビル対策のために市販の虫除けアイテムを持って行く人も多いのではないでしょうか。市販の商品のなかには、スプレーするだけでヤマビルを寄せ付けないものや自然に優しい物、雨や汗に強いものなどがあります。
また、長時間効果が持続するアイテムを持って行くことが大切です。ただし、ヤマビルに効果が期待できるアイテムは直接皮膚にスプレーできないものが多いため、衣服で皮膚を覆ったうえで使用しなければなりません。
市販のアイテムを持って行くだけでは確実にヤマビル被害を予防できず、万が一噛まれた際にも対応できないでしょう。
そこで、ヤマビルの被害を予防する方法、万が一噛まれた場合の対処法や、市販の商品を含めたヤマビル対策のための持ち物について詳しく解説します。ヤマビルの活動時期や対処法をチェックし、ヤマビルの被害を受けないようにしましょう。
ヤマビルの生態と特徴
ヤマビルとは、体の前と後ろ側に吸盤があるミミズに似た生き物です。水の中にも存在しますが、基本的にヤマビルは陸にも生息している種類であり、国内では本州と離島に分布していることが特徴です。
体長は3cmほどであり、非常に生命力があるため踏んだだけでは絶命させることは難しいでしょう。葉や草に潜んでおり、生き物を察知すると取り付いて吸血するといった被害をもたらします。
ヤマビルはミミズやゴカイの仲間であり、扁形動物です。環形動物とは異なる分類に属しており、ヒルではありません。
ヤマビルは庭や公園といった日頃生活をする環境の中にも存在する生き物であり、歯で人間の皮膚を傷つけて吸血をすることが特徴で、 吸血をすると同時に麻酔物質を出すので痛みは感じず、血を吸われていても気づかないことが多いです。
ヤマビルの体重の20倍までの血液を吸うことが特徴ですが、人間の出血量としては少ないため命に関わるほどの出血には至りません。ヤマビルが付いて血を吸われていても気がつかないので、靴下や衣服が血で染まっており、後になってヤマビルに吸血されたことに気づくケースが多いです。
ヤマビルの生息地と発生時期・季節
ヤマビルの生息地は秋田県、山形県、千葉県、神奈川県、群馬県、静岡県、滋賀県、京都府、兵庫県などの地域や、鹿児島県、宮崎県といった南部にまで広がっています。
ヤマビルの生息地が拡大し、吸血による被害が増えている原因は、森や林が少なくなっていることや地球温暖化が原因で気候が変わり気温が上がっていること、森林伐採によりイノシシやシカなどの大型の哺乳類が生息する地域が人間の生活圏に広がっていることなどが関係しています。
ヤマビルは気温が20度程度になると活動をし、25~30度で活発に活動することが特徴です。また、湿度・気温が高い梅雨には非常に多くのヤマビルが活動します。
関東地方では、房総半島や妙義山周辺にヤマビルが多く生息していることが報告されており、気温が高い妙義山では5月頃からヤマビルの被害が出ているため注意が必要です。
房総半島は標高が低く気温が高いため、秋にもヤマビルの被害が確認されています。ヤマビルはイノシシやシカを中心に吸血しますが、野生動物が人間の住む地域に多く出没するようになったため、イノシシやシカがヤマビルを運んでしまうことも懸念されています。
ヤマビルによる被害
ヤマビルに血を吸われると、吸われた箇所から血が止まらなかったり吸われた部分が痒くなったり腫れ上がったりといった症状が見られます。
さらに、傷口から菌が入ると感染症を引き起こし、熱を出したり蕁麻疹が出たりするケースも多いです。ヤマビルは血を吸う際にモルヒネに似た麻酔物質を出すため、吸血をされている際に痛みを感じることは少なく、ヤマビルが体についていることに気づかないケースも珍しくありません。
血を吸う生き物の中には毒を持っているものもいますが、ヤマビルは毒を持たない虫です。ただし、毒を持っていないからといって安心できるわけではありません。
ヤマビルは人間の他に動物の血を吸う虫でもあり、人間が山に入らなければその場所に生息している別の動物の血を吸っています。そのため、動物のウイルスや病原菌を持ったヤマビルも多いです。
ヤマビルが動物の血を吸うことによって動物が持っているウイルスや菌がヤマビルに移り、菌を持ったヤマビルが人間の血を吸う際に人間の体内にウイルスや菌が入り、感染症を媒介します。
ヤマビルの対策方法6個[服装]
ヤマビルは、基本的に水中で生息する種類ではありません。そのため、川遊びよりも登山をしている際に被害に遭うケースが多いです。ヤマビルの生息地で登山をする場合には、可能な限り水流がある場所をに沿って登ることによって、ヤマビルの被害を避けることも可能でしょう。
短期間であれば水中でも生存できますが、渓流といった常に水が流れている場所であればヤマビルの被害には遭いにくいです。ただし、渓流沿いを進めない場合や、山登りをする際には、ヤマビル対策として服装を意識する必要があります。
【服装対策①靴に塩を塗る】
ヤマビルの対策方法として最も有効なのは、食塩水を使用した方法です。濃度が20%以上の食塩水を靴下に塗り、登山当日にはスプレーボトルに入れて足元を中心にスプレーをしましょう。ただし、塩を使うので金属のパーツが錆びる可能性がある点に注意が必要です。登山を終えた後にはしっかりと洗い流して、錆びるのを予防しましょう。
【服装対策②靴下を塩につける】
ヤマビルは靴から侵入して吸血するケースがあります。靴下を塩漬けにしたうえで乾燥させておき、登山当日に履けばヤマビル対策になるでしょう。
【服装対策③塩につけたタオルを使う 】
国内にいるヤマビルは上から飛びついて吸血するケースは少ないですが、ヤマビルが足から這い上がったり、高い位置にある葉や草に潜んでいたヤマビルが衣服の襟から侵入するケースがあります。
靴下の対策と同じように、首の部分からの侵入を予防することも大切です。塩漬けにして乾燥させたタオルを首からかけるだけで、襟からの侵入を防げるでしょう。
【服装対策④厚手の靴下を着用する】
靴下が薄い、もしくは目が粗いものを履いているとヤマビルがついて吸血をするケースがあります。直接ヤマビルが皮膚についたわけではなく、靴下の上から吸血されたというケースも多いので、厚手の靴下を履いておくと安心でしょう。
【服装対策⑤靴下の中にズボンの裾を入れる】
ヤマビルが衣服の中に侵入するのを防ぐために、ズボンの裾は靴下の中に入れましょう。また、手袋を着用する場合、袖の部分を手袋の中に入れることも大切です。
【服装対策⑥ストッキングを着用する】
山登りをする際、女性はストッキングを着用しましょう。男性の場合、抵抗があってもストッキングを着用することが大切です。足に付着したヤマビルに血を吸われることを予防できます。
【出血して服が汚れるのを予防しよう】
ヤマビルに吸血されている時に気付かないケースが多く、衣服が血に染まっていたり、違和感を覚えて触ると手に血がついて気が付いたりといったケースも多いです。ヤマビルが吸血した切り口は数mm程度ですが出血量が多く、衣服が血液で汚れてしまいます。
人間には血を止める血液凝固因子が存在しており、血液凝固因子があるため出血しても一定時間で血が止まることが特徴です。しかし、ヤマビルは血液凝固因子を阻害する成分が成分を保有しており、吸血した場所に成分を注入します。
血液凝固因子を阻害することによってヤマビルが吸血終えて体を離れても血が止まりません。場合によっては、数時間血が止まらないため注意が必要です。
人間の生命に関わるほどの出血量ではありませんが、確実に衣服が血液で汚れ、不快な思いをすることになるでしょう。吸血・出血を防ぐための服装で対策をしましょう。
ヤマビルの対策方法5個[持ち物]
ヤマビルが生息している場所にヤマビルの天敵はおらず、ヤマビルを捕食する生き物もいません。また、ヤマビルは昼夜問わず活動をでき、数ヶ月間栄養素を補給しなくても生きられるほどの生命力を持っています。
天敵がおらず生命力の強いヤマビルに対処するためには、ヤマビル専用の駆除アイテムや予防薬を持っていくことが大切です。
頻繁に山登りをする場合には、手軽に対策できるアイテムやヤマビルに特化したアイテムを使用する方法が有効です。服装を意識して皮膚を隠したうえでアイテムを活用すれば、ヤマビルの被害を予防できるでしょう。
【持ち物対策①市販のヤマビル対策商品「ヒル下がりのジョニー」】
株式会社エコ・トレードの「ヒル下がりのジョニー」は、ヤマビルの対策に使用できるヒルよけのスプレーです。靴や衣服にスプレーするとや、ヤマビルを寄せ付けない効果が期待できます。化学物質を使用していない商品であり、自然のなかで使っても安心でしょう。
【持ち物対策②市販のヤマビル対策商品「液体ムヒアルファEX」】
「液体ムヒアルファEX」は、ヤマビルに血を吸われた際に使用する商品です。かゆみや赤みが気になる場所に塗ることによって、症状を和らげる効果が期待できます。ただし、蕁麻疹や熱が出ているなど重症の場合には、病院で診察を受けましょう。
【持ち物対策③市販のヤマビル対策商品「消毒用エタノールIPケンエースプレー式」】
「消毒用エタノールIPケンエースプレー式」は、水で希釈したものを衣服や靴にスプレーすればヤマビル対策として非常に高い効果が期待できます。ただし、環境に影響を及ぼすため、山登りの最中に頻繁にスプレーをしないよう注意しましょう。
【持ち物対策④食塩でスプレーを作る】
濃度20%以上の塩水を作って、スプレーとして活用する方法がおすすめです。衣服を塩に漬け込んで乾燥させたものを着用するといった対策でも使えますが、山登りの最中、気になる箇所にスプレーするために小さなスプレーボトルに塩水を入れても持っていくと良いでしょう。
【持ち物対策⑤抗ヒスタミン剤が含まれている薬】
人間の体には免疫が備わっており、体の外から侵入したウイルスや菌を死滅させます。しかし、ヤマビルに噛まれた際に体内に侵入する成分でアレルギー反応を起こすことがあるため注意が必要です。
ヤマビルが吸血した際に起こるアレルギー反応は人それぞれですが、赤く腫れたり強いかゆみを覚えたり、痛みを感じる、蕁麻疹が出る、発疹が出るなどの症状が現れる場合には抗ヒスタミン剤が含まれている薬を使って対処したうえで、皮膚科で診察を受けることが大切です。
もともとアレルギー体質の人は特に症状が悪化する場合があるため、抗ヒスタミン剤の薬や紹介した痒み止めの薬を塗って、アレルギー反応のリスクを軽減させましょう。
【こまめにチェックしながらヤマビル対策アイテムを活用する】
ヤマビルは、吸血をする前は小さく細長いので衣服の隙間や靴の隙間など、わずかな隙間から侵入します。そのため、こまめに体を確認することが大切です。虫除けアイテムや塩水を使って、体や衣服にスプレーをしておくと良いでしょう。
また、山登りをしているとヤマビルよけスプレーや塩水の効き目が弱くこともあります。ヤマビルが生息している地域で長時間過ごす場合には、こまめにスプレーできるよう、自然に優しいアイテム使用するのことも大切です。
ヤマビルに血を吸われていても気づかないケースが多いですが、すぐに対処できるよう、常にヤマビルを意識しておくことも大切です。
ヤマビルの対策方法8個[噛まれた後]
ヤマビルが吸血している際にヤマビルの存在に気付いた場合には、すぐにヤマビルを取る必要があります。吸血をしていても歯が皮膚に食い込んでいないため、吸盤をはがせば簡単に取れるでしょう。
【噛まれた際の対策①塩を使う】
塩水をかけたり、塩をそのままヤマビルにかけたりすると、駆除する効果が期待できます。塩で埋めればより高い効果が期待できるでしょう。
【噛まれた際の対策②タバコの火を当てる】
ヤマビルにタバコの火を押し付けることで、はがすことができます。ただし、皮膚を火傷する可能性があるので注意しましょう。
【噛まれた際の対策③手袋を付けて対処する】
ヤマビルを剥がす際に塩や火を当てると、ヤマビルが吸血した血を吐くケースがあります。そのため、他人が対処する際には血がつかないよう、手袋を着用しましょう。
【噛まれた際の対策④傷口の応急処置】
ヤマビルに噛まれた箇所の皮膚を絞り、ヤマビルから排出された成分を出したら水で洗います。絞りながら水で流すと良いでしょう。
数分は水で流した状態にして、噛まれた箇所をこすったり掻いたりしないよう注意が必要です。ヤマビルが排出した成分が広がるため、水の流れで洗う必要があります。
使用する水は、持って行った市販の水を使用することがポイントです。川の水には菌や寄生虫がいる可能性が高く、傷口から感染症を引き起こす危険があります。
【噛まれた際の対策⑤止血する】
ヤマビルに吸血されると、血が止まるまでに時間がかかります。ハンカチやタオルをきつく巻いて、絆創膏も使い、圧迫して止血しましょう。出血している箇所を強く押さえると、出血を止められます。
【噛まれた際の対策⑥消毒】
ヤマビルにかまれた箇所から感染しないように、消毒をしましょう。可能であればアルコールを使用し、アルコールがない場合には塩を使う方法も有効です。しかし、塩は炎症を起こす可能性があるため、注意しましょう。消毒をしたらかゆみ止めを塗ります。
【噛まれた際の対策⑦感染症の観察】
ヤマビルそのものに毒はありませんが、噛んだ場所から菌が侵入するケースがあります。基本的に、ヤマビルから感染する菌は強力なものではありませんが、免疫力が低い人は重症化することがあります。
血液から感染症を引き起こす可能性があるため、重症化していないと感じても病院で診察を受ける必要があります。噛まれた際に正しく対処し、数日間は発熱や発疹、消化器官の症状がないかを観察することが大切です。
【噛まれた際の対策⑧傷跡が残らないようにする】
ヤマビルに噛まれ、血が止まった後に消毒をして応急処置をしたら、化膿しないように病院で治療を受けることが大切です。痒みが強くなり腫れたり化膿したりすると、傷跡が残ることがあります。
ヤマビルに噛まれても基本的に命にかかわることはなく、応急処置のみで済ませてしまうことが多いですが、念のため病院で診察を受けることが非常に重要です。ヤマビルに噛まれたことを伝え、適切な治療を受けましょう。
ヤマビルの対策方法3個[寄せ付けない]
ヤマビルを寄せ付けないための対処法を確認し、被害を最小限に抑えましょう。
【寄せ付けないための対策①生息密度を意識する】
日常生活のなかでヤマビルを寄せ付けないためには、地面を乾燥させたり草刈りをしたりと、ヤマビルが生息する場所の密度を低下させる方法が有効です。しかし、山登りをしている際に自然の草木を刈ることは厳禁であるため、生息密度は低い場所を探すことがポイントだといえます。
そのため、休憩する場所の地面が乾燥しているか、落ち葉がないか、草が短いかなどをチェックします。休憩する場所や山登りのルートについても、ヤマビルが生息していそうな場所を避けると良いでしょう。
【寄せ付けないための対策②ヤマビルが嫌う物質を使う】
ヤマビルは食塩水や木酢液といった成分を嫌う傾向にあります。食塩水の濃度は20%、木酢液は50%にすることがポイントです。なお、木酢液は人間にとっても臭いが強いため注意しましょう。
希釈した液をスプレーしたり散布したりすることで、ヤマビルを寄せ付けない効果が期待できます。長時間山登りをする場合には、1日に何度かスプレーすることが大切です。
【寄せ付けないための対策③そもそもヤマビルの生息域に行かない】
最も確実な対策方法は、ヤマビルの生息域である山に行かないこと、活発に動く季節に山登りをしないことです。標高が高い山や気温が低い季節であれば、ヤマビルが活発ではないため寄り付くことも少ないでしょう。
また、同じ標高の山でも、ヤマビルが多く生息しているところと、ほとんど生息していないところがあります。例えば、関東では丹沢や房総にヤマビルが多く生息していますが、箱根や奥多摩、高尾は少ないことが特徴です。
なお、箱根や奥多摩、高尾のヤマビル生息数が少ないのは、野生動物が少ないことが理由だといわれています。
まとめ
山登りを楽しむためにも、ヤマビル対策は非常に重要です。ヤマビルは4~11月の時期を中心に活動しますが、最も注意が必要なのは梅雨の時期や雨の日です。
ヤマビルは塩や火を使うことで駆除できますが、山登りをする際には皮膚の露出を避けた服装を意識して、夏でも長ズボンと長袖、帽子と長靴、手袋を着用しなければなりません。襟元にはタオルを巻き、衣服の隙間からヤマビルが侵入しないように注意しましょう。
事前の準備として衣服や靴、タオルを塩漬けにして乾燥させ、当日着用するといった方法が有効です。ほかにも、ストッキングやアルコール、ヤマビルに効果が期待できる市販のアイテムを活用しましょう。
特に山には、熊や鹿など大型の哺乳類や、虫や魚などの小型の生き物まで多くの生物が存在します。ヤマビルを含め、自然の中に生息している生き物への対処法を知り、安全を確保しながら登山を楽しむことが大切です。
服装、持ち物、噛まれた際の対処法や寄せ付けない対処法を参考に、ヤマビル対策を行ってから山登りへ出かけましょう。